2011年3月27日日曜日

中野明さんの「音の仕事」  2006.07.10

はじめまして、アオイスタジオの中野 明と申します。
主に、音の品質管理に携わる仕事をしております。また、新入社員教育にもながらく関わっておりました。

音の魅力、または音の仕事のどこが魅力か?
『音とは、分子レヴェルの物理現象である』。そこには、音響工学、聴覚心理、建築音響、騒音と振動、楽器音響、電気(電子)音響、音響分析など、様々な世界が広がっております。さらに、科学では割り切れない感性を主とする地球上の様々なものを揺り動かす無限の芸術的な世界が広がっているところに大いなる魅力があります。 

また、視覚は目を閉じると、とりあえず瞼で外界から遮断されますが、音(振動をも含む)は四六時中、体感できます。この遮断しにくいところにも魅力が潜んでいるようにも感じます。 物が動く時、必ずと言ってよいほど音が発生します。また、その音はその場限りの唯一無二の音です。その分子レヴェルの現象を観察把握し、どのように他の人や物に伝えていくかの過程において、経験と自由な発想を駆使し、自分の想いを込める事ができるのが「音の仕事」の魅力的な部分と思っております。

この仕事の難しさ 
仕事ですので、自分の趣味と違って他者とのかかわり、予算や時間の制限があります。その制限の中で、自分の主張をどこまで表現できるかが、難しいところだと思います。 どんな仕事でも同様だとは思いますが、人それぞれ物の見方考え方に違いがありますので、コミュニケーションをとってよい良い方向へ収束させる事が必要です。

この仕事をするきっかけ
一言でいってしまえば、「音に興味があった」。 無意識の時から、常に周囲に存在している音。それを自分で知覚したのは、母親の胎内での音、産まれ出、初めて空気の振動を全身で感じた時の原体験か、定かではありません。 
 意識して探求の迷宮へと入り込んだのは、幼少の頃、電話と実際の人の声を聴いたときか、同一の曲で、父の聴いていた同じレコード盤からの音楽とラジオから流れ出る音楽の、音の差を感じた時のような、記憶があります。 

その後、日本盤との海外盤の音の違いや、使用する装置による音の差に興味を引かれ、ベートーベンと同じように
"Nicht diese Tone!"
と言い続け、自分の理想とする音を求めて研究し続けて気がついていたら、この仕事に就いていました。

今後とも、Mr.Bob Katz(Degital Domain社Engineer)の警句。
"There are two kinds of fools,
One says-this is old and therefore good.
The other says-this is new and therefore better."
を、肝に銘じ、「愛される音」そして「未来に対して責任のある音」を後世に継ぎ遺すことに努力を続けてまいります。

これから『音の仕事』を目指すかたに
1.『音』ではなく他の事や趣味で、深く探求した事柄を持っていると役に立つ事が有るかもしれません。
2.眠る前に「今日一番印象に残った音」を振り返って考えてみることをお勧めいたします。
3.『音』への取り組みは、各社、各人個性があり、技術や機材も日々変化し同じという事はありません。そこで役に立つのは、小手先のテクニックではなく、普遍性のある基礎です。語学を含めた基礎理論学習を独学でも、キッチリとマスターしておくことが大切だと思います。

そして最後に皆様に質問。
「ある室内空間でロウソクの燃える音」を、他の人にイメージさせる ためには、どのような音表現をつくりますか?

自分の想いを述べる場所を与えていただいたスタッフの皆様、ならびに、長文をここまで読んで下さった皆様に感謝し、ベートーベン「第9交響曲合唱付き」の第四楽章の冒頭の詩にあるような、より良い「音環境」を願いつつ、この文章を 終わります。


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